東京高等裁判所 昭和49年(う)1762号 判決
被告人 清水正夫
〔抄 録〕
所論は、原判示窃盗の事実について、原判決の摘示するところによると、河村、大野の両名は、被告人の代理人として被告人所有の山林を売却したものであるから、この売却代金五〇〇万円入りの包一個は両名が共同占有していたと認められるのに、原判決が大野の単独占有に属していたかのように判示したのは事実誤認である、また被告人所有の右現金包を被告人が河村と共謀のうえ「窃取」したと判示した部分は事実を誤認したものである、他人である河村、大野両名の占有する自己の物を窃取したというのであれば、刑法二四二条を適用すべきであり、二三五条だけを適用したのは法令の適用を誤ったものであると主張する。
しかし記録によれば、本件現金五〇〇万円の包一個は大野が自己の自動車のダッシュボード内に保管していたものであって、大野が単独で占有していたことは明らかである。仮りにそれが河村との共同占有状態にあったとしても、その奪取が大野の占有を侵害することになることは疑いない。また原判決の認定は明確ではないが、仮りにそれが五〇〇万円の包につき被告人の所有権を暗に認めた趣旨であるとしても、現に大野の占有に属する右包をその意に反して密かに奪うことが窃盗になることはいうまでもない。この場合には、他人の占有に属する自己の物を窃取したことになるから同法二三五条のほかに、二四二条をも適用すべきであることは所論指摘のとおりである。しかし二四二条は単に窃盗罪の対象である「他人の財物」の中には、「他人の占有」に属する自己の財物も含まれる趣旨を明らかにしているにすぎず同罪本来の構成要件や法定刑はあくまで二三五条によるのであるから、二四二条の適用を遺脱した違法があるとしても、この違法は判決に影響を及ぼすこと明らかであるとまではいえない。論旨は理由がない。
(横川 柏井 中西)